聞き慣れない声・・誰・・。
次第に意識を取り戻してきたラケシスの眼には自分を覗き込む顔がぼんやりと見えてきた。横たわったラケシスを呼ぶその顔は天井の照明による逆光で影になっていたが、すぐに枝見鏡花だとわかった。
ラケシスはようやく自分が枝見鏡花の研究室のソファーに座っていた事を思い出した。
「ラケちゃんはやめてくださいます?」
ラケシスは涙で濡れた顔で枝見鏡花を見上げてそう言った。
「良かった、大丈夫そうだね。ホッとしたよ〜。とにかく驚いたよ、私寝ないんですとか言ってたのに気がついたら意識を失ってソファーに横たわっていて、暫くしたら叫び始めたから」
「・・そうでしたの」
「多分、寝ないんじゃ無くて、動く必要が無い時は休止状態になって活動が停止するようだね夢を見るとはさらに意外だったけど参考になったよ」
鏡花は「涙も意外だったよ」とは言わなかった。
「自分ではそんな事知りませんでしたわ・・・・あれが夢?初めて見ましたわ」
「今まで自覚する必要が無かったんだろう・・、うん、それは恐らく夢だよ・・・」
「ねえ、聞きにくい事だけど・・悪いけど聞いて良い?どんな夢だった?あ、言いにくいなら言わなくて良いんだよ、プライベートな事を無理に聞くのは良くない事だからね。」
言葉では遠慮を表していたが、ラケシスから見える鏡花は興奮気味で溢れる興味を抑え切れて無かった。
ラケシスは少し放心状態になり天井の照明を見つめ、夢の光景を思い出しながら言った。
「二人に会いましたの」
「お姉さん達?」
「ええ・・二人は以前と変わらないいつもの二人で・・私も昔のような気持ちに戻りましたわ・・でも二人は先に歩いて行くのに私は崖があって追い掛けられなくて、動けなくて叫ぶしか無くて・・」
「そうか・・・」
「ねえ、戻りたい?」
鏡花はズバッと聞いた。
「まさか!あり得ませんわ。二人は私を許さない、特にアトロポスは・・・裏切り者を許す筈はありませんわ」
ラケシスは急に不安に襲われて上半身を起こした。
「枝見鏡花、私を追い出さないで、ここを追い出されたら間違い無く私は始末される。枝見鏡花、何でも協力するからここに居させて。」
鏡花はラケシスの手を握った。
「安心しな、ラケちゃんを見捨てたりしないよ。グリオンを倒せたのもミナト君が戻ってきたのもみんなラケちゃんのお陰だからね。大変な協力者だよ。それはあのお気楽ボーイや皆も分かっているよ。あ〜スパナは微妙だけどね」
その時鏡花はあるプランを閃いた。
「ねえラケちゃん、明日ラケちゃんの服を買いに行こう」
「?」
ラケシスは意外過ぎて声が出せなかった。
「せっかく逃げて来たんだし、いつまでも着の身着のままじゃ良くない。その格好じゃ何かと目立ち過ぎだ。それに私の服じゃラケちゃんに合わないからね。私も気分転換になる。
心配しなくて良いよ、一緒に選んであげるから。」
数日後 公園にスパナと待ち合わせをする鏡花とラケシスの姿があった。
もちろんラケシスは買ったばかりの服装だ。
それは人間には普通の普段着だが鏡花の薦めで冥黒の三姉妹とは真逆の白を基調とした服装だった。
つづく
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