「何だか落ち着きませんわ。軽くて白くて武器も無くて不安しかありませんわ。」
「まあ、そう言いなさんな。自分ではわからないのも無理は無いかもしれないけど。何度も言うけど物凄く綺麗だよ。通りがかった人達はみんな振り返ってたじゃないか。」
「そうでしたの?わたくしは大勢にジロジロ見られてとても嫌な感じでしたわ」
「ま、とにかく心配無いって事。落ち着いて、落ち着いて」
「でもこんな事して大丈夫ですの?着替えるだけでは駄目ですの?黒鋼スパナにこの姿を見せるなんて私不安ですわ、またあいつに嫌な事を言われたら・・」
「大丈夫さ〜私と一緒だし問題無いよ。とにかくスパナには女友達を紹介するとだけ言ってあるから、顔を合わせても最初はあまり喋らないで。まあすぐにラケちゃんだと分かるだろうけど。少しだけでもスパナを驚かせてラケちゃんの事を見直すキッカケにして欲しいんだ。」
その頃スパナは自分の知らない鏡花さんの女友達の存在に疑問を持ちながらも待ち合わせの公園に訪れたが、鏡花の横にいる女性を見てギョッとして慌てて物陰に隠れた。
それからしばらくして
「スパナ遅いな〜、こんなに遅刻するのは初めてだよ、あ、やっと来た来た」
「スパナ遅かったぞ、どうした・・」と言い掛けた鏡花を素通りして、髪を整え、花束を持ったスパナがラケシスの前に立った。
「初めまして、黒鋼スパナです」
ラケシスは喋らないようにしていたが、スパナの普段とは違う積極的な態度での距離感に驚いてより一層何も言えずに固まっていた。
「鏡花さんに貴女のようなお友達がいたなんて知りませんでした。どうかお見知りおき下さい。これはささやかですがお近づきの印です、どうぞ。」と花束を差し出した。
あ〜、薔薇五本の花束なんて、これを用意して遅くなったのか〜スパナもやるねぇ。
え?・・顔を合わしているのにまだ、ラケちゃんだと気づかない?
・・まだ気づかない?
・・・え〜と、これは想定外だぞ・・・
これ以上長引くと洒落にならないかも・・。
鏡花は想定以上に自分のプランが成功した事に達成感を感じると同時に急速に不安に支配され始めて焦りだした。
鏡花は嫌な汗が吹き出してきた事を感じながら、ラケシスにキラキラと爽やかに語りかけているスパナに叫んだ。鏡花が叫ばなければスパナは 貴女は薔薇より美しい などと言う寸前だった。
「スパナ、ごめん!その娘はラケシスなんだ!」
「え・・・・」
その瞬間世界は凍りつきスパナは固まった
鏡花は何かが壊れる大きな音や「嘘だろ」と言う声が聴こえた気がしたが、もしかしたら幻聴だったかもしれない。鏡花は薔薇がしおれた錯覚も見た気がした。スパナはしばらくその場に固まっていた。
つづく
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